第3回 みんなが幸せになる森がある
フィンランドにみんなが幸せになる森がある。争いや差別や格差も無く 山や川や谷に囲まれみんながハッピーになれるユートピア。言わずと知れたトーヴェ・ヤンソンが描くムーミン谷の物語。それはフィンランド的でもありコスモポリタンの印象漂う世界。
住民達はそれぞれのテリトリーを行き来しながらも自分のライフスタイルを大切にする。相手を思いやりズカズカと踏み込む事無く距離を保ちながら繋がっている。そして何かあると集まり助け合う。夏至祭や収穫祭、春の訪れ。コミュニティーには季節毎に様々な料理が登場する。ジャガイモのグラタン
やオートミール。ベリージャムそしてパンケーキ‥‥冒険に出かけようとするムーミンに「ちゃんと食べていきなさい」と諭すムーミンママ。渋々とそれでもきちんと腹ごしらえをして出かけて行く。食べる事これはどんな時でも基本なのだから。大きなサイクルでゆっくりと時間が流れていく。
北欧スカンジナビア半島をオスロから北周りに一周しフィンランドまで旅した事がある。ユーレイルパスを使った列車の旅。まずはコペンハーゲンからフェリーでスウェーデンに渡り列車でノルーウェイのオスロを目指す。9月も半ば、短い秋も過ぎこれから長い冬にさしかかろうとしていた。モノクロームの街並と低い空。灰色の瞳を持つ人々とフィヨルドの黒い海。そしてムンク。生まれた土地の気候や自然が少なからず人々や画家に影響を与えているとすれば、たとえばゴッホがこの地で育ち、のちにアルルに移り住んでもきっと違った絵を描いていただろう。アムステルダムの明るい日射しで見た衝動的で激しい性格のゴッホと文学的で死の匂いのするムンク。一見対照的な二人だが、共通する不器用でメランコリックな部分の他に幻聴と妄想を両者の絵の中にも見る事ができるだろう。ムンク美術館を後に半島一周の旅に備えて食料を買い込み駅へ向かう。パンにサラミ、コンビーフのパテ、チョコバーに果物とワイン。車窓にはムンクが描くような水平に重なる雲が丘の雪をはらうように流れてゆく。絶えず吹く風は木々を低く身構えさせ湖面を波立たせる。褐色のコケは凍りついたツンドラの大地を覆い、やがて灰色の世界は日暮れと共に闇に溶け込んでゆく。翌朝景色は一変し青々とした背の高い針葉樹の森にはトナカイやヘラジカまで姿をみせる。思い出したようにキラリと光る湖。そして果てしなく続くノルーウェイの森。列車は更に北極圏を目指し北上しボーデでバス、フェリーに乗り換え世界最北の駅があるナルビクに到着する。白夜の夏は過ぎオーロラの季節にはまだ数ヶ月もあり今は冷たい雨ばかり。先を急ごう。
そこからスウェーデンのボーデンを経由しフィンランド側のケミに入る。なぜか国境はバスとの連携で乗り換える仕組みになっていた。ヘルシンキまで5日間の旅、途中下車した湖の町でボーイスカウト十数名の小学生達と同じバンガローに泊まる羽目になる。予約も取って無い異邦人を引率のリーダーが気の毒に思ってくれたのだ。その夜は好奇心丸だしの子供達の餌食となる。最初はもの静かでシャイだったちびっ子達、招かざる客を遠巻きに眺めながら明日のハイキングの準備をしている。‘リーダー、泊めたのはあんたの判断ミスか?’と、居心地の悪さに開いたスケッチブックに食いつきチョロチョロと寄って来た。東洋の神秘漢字に興味を示すもの、コンパスやアーミーナイフに興味を示すもの。こちらもまずは地図を広げ日本の位置確認。それからは漢字を教えたり似顔絵を描いたり異文化交流は夜遅くまで続く。金色の髪を持つ子供達は小さい頃からキャンプや釣りやカヌー、ラフティングなど自然とふれあいながら育つ。成人になってもコミュニティーの付き合いはあたりまえの様に続きみんなで問題を解決していく。まさにムーミン谷。残念ながら子供達は日本を殆ど知らなかった。ある日は小さな女の子がいるホストファミリーの家にも泊めてもらった。音楽一家でバーンスタインのウィーン・フィルの中継を家族と共に見た記憶がある。ロシアやアラブ、アジア系の移民を多く受け入れているはずの北欧諸国。親日家も多いと聞いてはいたが、ただ日本人は珍しかったようだ。そして5日目の朝列車は首都ヘルシンキに到着する。シベリア鉄道の終着駅でもある国際ターミナル駅。そこからフェリーでスウェーデンのストックホルムまで一昼夜。小さなムーミン達にも出会えたスカンジナビア半島の旅は終わった。
北欧がエコやスローライフのイメージが定着したのはいつ頃からだろう。
日本でもスローフードやオーガニック食品が話題になり始めたのは環境に対する意識が強くなり始めたここ15年位ではなかったか。確かアメリカのアーティスト達の健康ブームから端を発した記憶がある。しばらくしてスロー、ロハスをキーワードに雑誌「ソトコト」も刊行され一気に広まっていった。
そもそもスローフードの定義は
1. 良い食べ物=おいしくなければならない
2. クリーンな食べ物=環境を汚さない農法や製法
3. フェアな食べ物=生産者に対する公正な報酬
つまり生産者から食べる人まで、その間の流通や企業が総て笑顔になれるやさしい貿易。
食べる人はフェアトレード商品を選ぶ事で消費者ではなく共同生産者だという事で生産者を積極的にサポートし生産過程の一部だと意識する。その結果環境にもやさしく地域生産ルート全体が豊になり生産者に適正な価格の報酬が保証されるという国際貢献なのだ。意識することで地球の食物連鎖が少しだけ変わります!
ベシュレジャパンでも有機カカオの加工工場を持った独自の共同組合によりフェアトレードチョコレートを販売している。そのカカオの苗も単一栽培ではなく色々な植物の間に植える事で最適な日陰も出来、害虫や病気の伝染も防げるとか。そして共生させ多様性を持たせることで生態系も保たれ環境に強くなる。まるで多民族を抱えて共存している今の北欧のようだ。また危機感の無い苗は種の保存能力が無くなり実を結ばなくなってしまうという。
みんなが幸せになる森。それは長期的な視点に立ってやさしさや思いやりを常に意識することで見えてくるそれぞれの心の中にあるのかも知れない。
All Illustrations (C)Tsukasa Matsutake |